ROE(自己資本利益率)は税引後純利益を自己資本で除して計算し求めるが、これは3つの指標に分解することができる。Du Pont社が財務分析に使ったことに由来してデュポンシステムと呼ばれている。論者によりデュポンsystemのほかにformula,identity,equation modelなどとも呼ばれている。ROEは周知のようにreturn on equityの略で自己資本利益率と呼ばれている。自己資本は株主持分あるいは株主資本などとと言われたり、財務諸表では貸借対照表上で純資産と表示されており、いづれも同義に使われている。簡単な代数式になるが、自己資本純利益率ROEは売上高純利益率、総資本回転率、財務レバレッジの3つに分解される。
簡単な設例で示すと
A社のROEは 税引後純利益/自己資本=4/40=10% となる。
売上高純利益率=4/80=5%
総資本回転率=売上高/総資本=80/100=0.8回
財務分析では貸借対照表上の総資産を総資本と呼ぶことが多く、総資産も総資本も同義である。
財務レバレッジ=総資本/自己資本=100/40=2.5倍
これた3指標を掛け合わせる0.05×0.8×2.5=0.1
つまり10%のROEと等しくなる。このように3指標に分解することでROEの内容を深掘りできる。他社と比較して利益率は低いが資本回転率が高いためにROEが高いのか、あるいはレバレッジを効かしているのでROEが高いのかなど探ることができる。
仮にA社と同規模のB社があり、下のような財務内容だとする。
B社のROEは税引後純利益/自己資本=3/10=30%
売上高純利益率=3/80=3.75%
総資本回転率=売上高/総資本=80/100=0.8回
財務レバレッジ=総資本/自己資本=100/10=10倍
ROEだけで比較するとB社はA社よりも遙かに高い利益率を示している。しかし3つの指標に分解してみると主要な要因は財務レバレッジを大きく効かしていることがわかる。他人資本(=負債)をうまく活用して効率的な経営をしていることになるが、財務安全性の観点からは心配な点も見えてくる。有利子負債が多ければ将来、金利が上がってきた場合には金利負担が大きくなることが予想されるし、業績悪化の場合は容易に債務超過に陥るかもしれない。。
投資家の観点からはROEの高さだけに目を奪われるのでなく、さらに財務比率を細かく分解して吟味することが重要だろう。また、一定の前提条件の下では ( ROE×内部留保率 ) は成長率と等しくなるので企業の成長性を分析する上でも重要な指標である。
投資家が強い関心を持っている代表的な指標に株価収益率と株価純資産倍率(PBR)がある。株価収益率は周知のように、株価÷1株当り純利益 で示され、純資産倍率は 株価÷1株当り純資産 で示される。従って 純資産倍率÷株価収益率=1株当り純利益÷1株当り純資産=ROE という関係が導かれる。株価収益率、株価純資産倍率、ROEは密接な関係があり、当然にROEの構成要素とも密接な関係があることがわかる。(詳細は残余利益モデルを参照)
ROEと株主資本コストとの差をエクイティ・スプレッドと呼んでいるが、株主資本の成長性を判断するのに重要な指標の一つといえる。株式評価モデルのオールソンモデルでの残余利益は金額ベースでのエクイティ・スプレッドを表しているといえる。つまり、残余利益=当期利益-期首自己資本×株主資本コスト なので、式の両辺を期首自己資本で除すとイールド・スプレッド となる。
アナリストにとってはROEを5指標以上に分解したり、様々な指標と関連づけて分析し自らの職人技を発揮できる分野の一つかもしれない。