高まる決算書の重要性(財務情報、非財務情報

連結決算とマクロ経済指標)

 

公開会社はもちろんだが非公開会社でも財務報告基準が頻繁に改正され、それにあわせて税法も頻繁に改正される時代に入ったので経理部は大変忙しくなっている。国際会計基準が変われば数年後には国内の財務会計基準が改正され、その後しばらくすると中小企業の会計に関する指針 も変更され、税法上の扱いも変わってくる可能性があるので中小企業といえども国際的な財務報告基準の動向に注意を払って経営をする姿勢が大変に重要となっている。最近では気候変動や脱炭素、環境問題などの取り組みや姿勢が売上高に影響したり、有利な融資を受けられるかどうかの判断材料とされる傾向にある。

さらに財務分析をする側から見て決算書とか特に連結会計利益は重要な数値であることは言うまでも無いが、マクロ経済分析と関連させる場合には注意すべき点がある。よく決算書の年次報告の出だしの部分で「我が国のGDPは○○%成長し、お陰様で当社の売上も○○%伸び・・・云々」といった定型文で決算報告をすることが多い。でも中小企業でも国際化が進めば進むほどに、このような定型文での説明は難しくなってくる可能性がある。

 

1. 金融機関や取引先の与信審査の問題

金融機関は貸出の審査や金利水準の決定に際しては、独自のモデルによる財務データの分析結果に基づいて判定する傾向にあり、また今まで見てきたようにデータさえ揃えば独自に取引先も倒産確率のようなものは試算できるので、企業の決算書の役割は大変に重要となってくる。中小企業の場合は税務申告にあわせて通常は決算書は年に1回しか作成されないので、その時点での数値だけで会社が診断されやすい。特にコンピュータで数値を入力して財務モデルで自動診断するとなると前後の事情は斟酌されないきらいがある。では、診断される側の会社はどうすればよいだろうか。一つの対策は月並みであるが金融機関などによく説明することである。説明するには何らかの証拠が必要となる。その証拠の一つとなり得るのは月次決算である。月次決算書を示すことで連続的な推移、傾向分析が可能となり、的確な診断結果を得ることにつながるであろう。いつでも動態的な分析が可能となるように財務データを準備しておくことは大変に重要である。特に新しい会計基準では利益を売上から諸経費を差し引いたフローの概念ではなく、純資産価値がどれだけ変動したかで測定する傾向があり、財務数値のボラティリティ(変動性)が高くなる。それだけに、貸借対照表の連続的な変化を詳細に説明できる体制になっていないと企業評価で不利となってしまう恐れがある。

 

2.海外進出や国内外の企業との提携の問題

大企業の主力工場が海外に移転したため、下請企業も海外に進出することは珍しくない。海外に進出すれば海外企業や金融機関と取引が始まり、日本の親会社の決算書を求められる場合も多くなる。その場合には国際的に通用する会計基準に従った決算書を作成しておけば説明も楽であるし相手方の理解や信用を得やすくなる。中小規模の企業でも国際会計基準と無関係ではいられないわけである。国内の企業と提携する場合でも相手方は自社のことは棚に上げて公正妥当な会計処理をしているかなど厳しい質問をしてくる可能性がある。在庫の評価は適正か、貸倒引当金は十分に積んでいるか、子会社株式の評価などは適正か、決算書は国際会計基準からみても大きな相違はないかなど問い合わせてくる。このような事態に備えるためにも国際的な会計基準に従った財務数値もタイムリーに出力できる体制にしておかなければならない。

3.マクロ経済分析からみた連結会計利益についての問題

財務分析をする場合に会計利益とGDPのようなマクロ経済指標との関係性を分析することが多い。確かに日本国内に工場を持ち、日本国内の顧客に製品を売っているような場合にはGDPとの関連性は高いことが予想される。ところが本社は日本にあるが北米、EU、アジアなど世界各国に工場を持ち現地法人化しているような場合は話は少し違ってくる。日本国内では消費が伸び悩み売り上げも低調であったが、北米では好景気で生産も売上も伸びて北米子会社は大幅増益だったとする。上場会社であれば連結決算で財務報告をするので連結ベースでは大幅な増益となり株価も好調に推移するだろう。でも日本国内の消費は低調でGDPはゼロ成長といった状態になりマクロ経済指標と個別企業成績とのギャップが生じてくる。北米子会社が好景気で売上も仕入も伸びることは、その付加価値は北米でのGDPには貢献するが日本のGDPには直接の貢献はない。逆に言えば、米国の大手IT企業が日本に子会社を設立して多くの人材を雇用し新しいソフトを開発して売上を伸ばせば日本のGDPには直接的に大きく貢献するが米国のGDPには直接の貢献はない。極端な例としてはスイスに本社を置く国際的な食品会社がある。世界中に子会社を持ち活動しているが、スイス国内の売上高の占める割合は低いので、連結決算で見ると大きな利益を上げていてもスイス国内のGDPに及ぼす影響度はかなり低いと考えられる。もちろん株主は世界中で連結利益を注目しており一国のGDPの貢献度は関心の対象外であり、連結利益が好調であれば株価も堅調となるだろう。国際的に活動する企業にとっては連結決算書ではボーダーレスとなっており、国境線で明確に区分する経済統計との関連性は薄くなってくる。国境線を意識したマクロ経済指標との関係分析を重視するとすれば企業の国内子会社のみの連結決算を追加的に別個に開示するシステムが必要となってくるだろう。

 

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