ゴードンモデルは内部留保のみで資金調達し、毎期に一定の利益の利益を生み、配当以外をすべて再投資して利益率(ROE)rの収益を生み続けると仮定する。当期利益E、内部留保率b(配当性向=1-b)、株主資本コストk、投資利益率(ROE)rとすると株式価値V は
で計算できるので
10×(1-0.6)/(0.08-0.06)=200となる。200という株価はA社が6%の成長を無限に永続させたと仮定したものである。もしA社が利益全額を配当で支払い、成長を目指さないとすればb=0となり、従ってg=0なのでA社が全額配当ゼロ成長の場合の株価は
10×1/(0.08-0)=125となる。200と125の差額の75は成長機会の現在価値と考えることができる。ここから内部留保率を高め成長率を高めることが株価にプラスとなることがわかる。では、いつでも内部留保率を高めれば株価にプラスとなるのかケース2で確かめてみる。ケース2ではA社のROEと資本コストがそれぞれ0.1と同じ場合である。
これでは主として株価評価の観点でゴードン・モデルを検討してきたが、ここからは市場が企業の成長力をどの様に評価しているかを探るツールとして検討してみる。
の算式では分子は1株当たり配当、分母は(資本コスト-成長率)と読むことが出来る。資本コストの実証研究は多数発表されているが、日本企業では5%から8%くらいの推定をよく目にする。上記算式のうち配当は公開されており、資本コストの業種別の平均値なども入手しやすいかも知れない。もし入手できなければ仮に5%などと仮定できる。企業の株価は終値などで把握できる。するとモデルの他の変数を所与として、終値から成長率を逆算することが出来る。マーケットでは当該企業の成長率をどの様に見ているかを探るヒントになるかも知れない。オプション価格からインプライド・ボラティリティを推計するのと同様の手法である。例えば終値が100、配当は5、資本コスト8%とすれば100=5/(0.08-x)
で
x=0.03から成長率を3%と見ていると推測できる。これでは余りに素朴すぎると思えば、少し手間をかけて、三角分布など適当な変数の確率分布を想定してモンテカルロ・シミュレーションを行うことにより成長率の確率分布を探ることも可能だろう。