サスティナブル成長率(sustainable growth rate)

サスティナブル成長率は負債利子率、資本構成、配当性向、税率の全てを一定として、自己資本は全て内部留保で調達するという前提のもとに成立する成長率をいう。いいかえれば、損益計算書、貸借対照表の全項目が同じ比率で成長し、全ての財務比率が一定水準に保たれる成長率をいう。また利益処分による社外流出は配当金のみと仮定されている。ROEを当期純利益÷期首自己資本と定義すれば、サスティナブル成長率は次のように表される。

サスティナブル成長率(g)=ROE×(1-配当性向)

=ROE×内部留保率(b)  但し、b=1-配当性向

サスティナブル成長率の算式によるとROEが高いほど、また配当性向が低いほど(逆に言えば、内部留保率が高いほど)サスティナブル成長率は高くなることを示している。

簡単な計算例で分析してみる。

サステイナブル成長率の算式によるとROEが高いほど、また配当性向が低いほど(逆に言えば、内部留保率が高いほど)サステイナブル成長率は高くなる

当期純利益(P) 10 
内部留保率(b) 40%
ROE=10/40 25%

上記のような仮定をおけば、

サスティナブル成長率g=  0.4×0.25=0.1

サスティナブル成長率は負債比率(負債/自己資本)を変化させずに、つまり、財務レバレッジを増加させることなく、しかも新株発行などせずに内部留保によって、持続的、長期的成長を可能とする成長率を意味している。

このサスティナブル成長率はROEが高まれば、大きくなる関係があるため、ROEに影響する財務指標の影響も受けることになる。つまり企業の持続的成長のためには純利益、配当政策、財務レバレッジ、資本回転率などに依存していることがわかる。財務レバレッジは資金政策により変動し、資本回転率は選択と集中による事業部門の譲渡などの政策によって影響を受ける。

株価との関係を見てみると、ゴードンモデルに従って理論株価を表すと当期利益E、内部留保率b(配当性向=1-b)株主資本コストk、投資利益率(ROE)rとすると

理論株価V は

定率成長モデル ゴードンモデル

で表せる。ROE(r)×b=g つまり成長率に等しくなるので、成長率gが高まれば株価を高める関係が分かる。 

なお、  論者によってはROEを当期純利益/期末自己資本 で計算するケースもあるが、その場合は少々煩雑になるがサスティナブル成長率は以下のようになる。

サステイナブル成長率(g)=(ROE×内部留保率(b))/(1-ROE×b)

ROE(1)=当期純利益/期末自己資本 とすれば

P・b+E(0)=E(1) の関係から両辺をE(1)で割れば

P・b/E(1)+E(0)/E(1)=1  また サスティナブル成長率に定義から、E(1)/E(0)=1+g

P・b/E(1)+1/(1+g)=1 

 P・b・(1+g)/E(1)=g

ROE(1)=P/E(1) を上式に代入し、gについて整理すれば

g=(ROE(1)・b)/(1-ROE(1)・b)

この算式を使って

分母を期末時点での自己資本として計算したROE(1)=10/44 22.7%
サスティナブル
成長率(g)=0.227*0.4/(1- 0.227*0.4) 10%

 

財務分析のテキストでサスティナブル成長率の話が出て来たときには、期末の貸借対照表に注意すべきである。内外のテキストでは財務モデルに基づく指標の関連性を明確に分析し説明するために期末の貸借対照表は配当支払後の剰余金を反映した純資産(自己資本)が使われるのが通例となっている。実際の財務諸表では期末時点ではまだ株主総会で配当決議もされていないので配当支払前の剰余金が計上されており、純資産も配当支払前の数値となる。

 

ROEの3指標分解(デュポンシステム)

 

ROEと理論株価

 

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