株式評価方式の概要

 

日本では株式の評価方式(方法)として純資産方式や類似会社比準方式などが相続税の株式評価や未上場会社株式の公開価格算出などに広く利用されている。米国でもEDGARなどのデータベースの発達により比準方式も再び見直されている。

1.純資産方式

これは株式発行会社の1株当たりの純資産によって評価する方法で、資産・負債を簿価で評
価する簿価純資産法と時価で評価する時価純資産法がある。

純資産方式は企業の買収、現物出資価格の評価、支配株主等の株式追加取得、清算会社の評価、相続や贈与の税額計算などの評価に利用されている。

 この方式は企業の収益力が反映されない点や簿価純資産法では簿価と実勢価格が乖離する点、.時価純資産法では評価にどのような時価を適用すべきか決定し難いなどの問題がある。

 

2.類似会社(類似業種)比準方式

これは、公開会社のなかから評価対象会社と業種・規模等が類似する会社(業種)を選定し、利益や純資産や配当等の諸要素を比較して評価する方法である。この方式は公開前の会社の株価の算定や相続や贈与に当たっての財産評価で利用されている。難点としては類似会社の選定が難しいことや類似会社の株価が必ずしも公正とは限らない点などである。


3 配当還元方式(配当割引モデル)

これは企業の配当に着目し、1株当たり配当金額を割引率で還元して1株当たりの投資価値を算定する方法である。この方式を発展させたものに定率成長配当割引方式がある。
企業財務論では株価は配当によって決まるのか、あるいは利益によって決まるのかという議論がある。結論的に言えば株価は将来の利益の現在価値でなく、将来の配当の現在価値で決まる。
単純に将来の利益の現在価値で計算すると株価は過大に評価される。企業が得た利益の一部は成長のための投資に充てられるので、これを含めると株価は過大評価されてしまう。
これらの議論についてはStephen A. Ross 他 によるCorporate Finance McGraw-Hill Irwin
に詳しく述べられている。邦書では 経営財務入門 井手、高橋 日本経済新聞社 に丁寧な解説がある。

日本では利益があっても無配の企業や、逆に利益の多寡にかかわらず配当額を一定とする企業があるので単純にこの方式を適用することは難しい。

配当割引モデルの応用として定率成長モデル(ゴードン・モデルともいう)がある。

 

ゴードンモデルは内部留保のみで資金調達し、毎期に一定の利益の利益を生み、配当以外をすべて再投資して利益率rの収益を生み続けると仮定する。当期利益E、内部留保率b(配当性向=1−b)
資本コストk、投資利益率rとすると株式価値Vはk−rb>0を前提として、毎期に利益Eを生み、配当以外の留保金をすべて再投資して利益率rで収益を生み続けると仮定すれば(E+brE)/E=1+rb で利益成長することに等しいので利益成長率はrbとなる。このモデルは学界で批判もあるが使い勝手が大変よい。会社の株価の目処をつけるのに当期利益、ROE、配当性向、資本コストといった比較的に情報の得やすい数値を与えることでシミュレーションをしやすい。例えば1株当たり予想利益100円、配当性向60%、(内部留保率=1−0.6)、ROE 8%、資本コスト5%とすれば株価=100x0.6/(0.05−0.08*(1−0.6)=3333.33

赤字会社や黒字で長期無配会社の株式評価についてもゴードンモデルは応用しやすい。

詳細はゴードンモデル詳細 をご参照。


4.残余利益(超過利益)割引法
純利益から自己資本コストを控除した残額を残余利益というが、これを現在価値に割引計算する方法である。詳細は 
残余利益モデル を参照
 

5.割引キャッシュフロー法

企業の価値は将来どれ位のキャッシュを生み出すかに依存すると考えて、企業が将来一定期間に生み出すと予想されるキャッシュフローを現在価値に還元したもので企業評価する方法である。この方式の利点は企業の会計方針の選択により企業価値が左右されない点にある。例えば、固定資産の減価償却方法を定額法から定率法に変更することによって会計上の利益は大きく左右されるがキャッシュフローではどのような償却法でも変わらない。

予測されるー連のキャッシュフローを割引率で割り引いて現在価値を求めて企業価値を評価する。

t期のキャッシュフローをCFt、割引率をr、企業価値をVで表わすと

 


しかし、無限の未来までキャッシュフローを予測することはできないので、実務的には、企業価値Vを一定の予測期間のキャッシュフローの現在価値と予測期間以降のキャッシュフローの現在価値の和と考え、予測期間以降は一定の成長率gでキャッシュフローが成長すると仮定して以下のように計算する。第i期までCFを予測し、第i+1期以降は割引率k、期待成長率gと仮
定すれば

 

で計算できる。なお、ここで使われる割引率は負債コストと株主資本コストの加重平均である加重平均資本コストになる。

企業価値=負債価値+株主資本価値  

であるから、企業価値から負債価値を控除して株式価値を評価することができる。

 

6.併用方式

上記の各種の評価方式には評価目的によって一長一短があるので、複数の評価方式を組み合わせて株価評価するのが併用方式である。実務では評価の目的により各種の方式にウエートを付けて総合的な判断をするケースが多いようである。

通常、株式評価は企業が永続すると仮定して計算される。企業の清算を前提とした解散価値とは異なることに注意すべきであろう。
詳細は
PBR(株価純資産倍率)と株式評価モデル   をご参照





 
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