CAPMは大変に有名でファイナンスのテキストでは必ず取り上げられている。理論に精通している人には自明のことでも素人には何かと疑問に感じることがあると思う。千人のうち3人ぐらいは同じ疑問を持っているかもしれないと思い自分の疑問点をエクセルを使って探ってみた。疑問というのは、例えばAとBの2株式のポートフォリオの例でいえば、市場ポートフォリオの収益率とA株の収益率の関係式でβを計算している。与えられたデータはA株とB株の収益率と分散共分散だけで別途に市場ポートフォリオの収益率や分散共分散は与えられていない。もしこのようなデータが与えられていれば市場ポートフォリオの収益率を説明変数、A株の収益率を被説明変数として単純回帰によりβを求めることが思いつくが、特にそのようなデータは与えられていない。ここで市場ポートフォリオの設定のあたりに何か絡繰りがありそうだと思い簡単な設例で実験してみた。
設例としてはA株とB株の2株式だけで、投資家は何時でも2%の金利で借入や貸付が可能な世界を想定している。投資家は1期間のポートフォリを運用を考えており、年初0で年末1の経済状態を予想して年初0時点での最適ポートフォリオを考える。例えばA株については1年後の景気が上向く、現状維持、下向く、などの
シナリオ分析で期待収益率の確率分布を想定する。今から1年後の確率分布を織り込んで現在(年初0時点)での株価は形成される。1年後の価格が高いと予想されれば需要は増加し、現在の株価は上昇し、逆の予想であれば低下する。このような市場での価格調整が行われて需給が均衡した時に形成された株価が年初0時点での均衡株価となる。仮にA株の1年後の株価が41.6と予想されるとA株の期待収益率は4%(=41.6/40-1)、B株の予想株価が53であれば期待収益率は6%(=53/50-1)。このように株式の期待収益率を全ての投資家が同じように予想すると仮定する。収益率の分散や共分散も全ての投資家が同じように予想すると仮定する。このようにして得られた年初0時点での情報が下記のようになったとする。
年初0時点での均衡株価はA株は40、B株は50とする。
(efficient portfolio of two stocks and a risk-free asset)
CAPM導出のあらまし
deriving a security marke line
話の流れは次のようになる。まず、市場(マーケット)ポートフォリオM(market portfolio)に(1-x)、個別株式iにx投資するポートフォリオpを編成する。株式iは当然に市場ポートフォリオに含まれている。市場ポートフォリオは接点ポートフォリオであり効率的ポートフォリオであるが、ポートフォリオp(inefficient
portfolio)はわざわざ株式iをつけ加えており非効率的なポートフォリオになっている。そのためグラフでは青色で示した市場ポートフォリオの効率的フロンティアを下回る位置での赤色の双曲線で示されている。ただ、x=0 つまり株式iの投資比率がゼロの時は市場ポートフォリオと同一になる。その箇所はグラフ上のMになる。
この導出過程は William F,Sharpe,Gordon J. Alexander,Jeffery V. Bailey INVESTMENTS
(1998) Prentice-Hall,Inc
を参考にした。この本はファイナンスの基本書だが第9章のCAPMのプロローグ部分で仮定(assumptions)について少し言及されている。資産がどのように価格付けされるかを見るためにはモデルを作らなければならない。この作業は複雑な状況を抽象化し最も重要な要素に焦点を当て単純化する過程である。成功するモデル構築のためには仮定は単純である必要がある。仮定の合理性は大きな問題ではない。そしてフリードマン(Milton
Friedman)の言葉を引用して仮定が現実的かどうかより良い近似値や予測を生み出せるかが重要だといった趣旨のことが述べられている。アカデミックな世界ではどのように仮定をたてて理論を構築するのか少し興味があったので引用されていたFriedmanのEssays
in the Theory of Positive Economics
1953 をちょっとだけ調べてみた。しかし残念ながら英文があまりにも難しすぎてお手上げだった。腕に覚えがある好学家は一読されてみたら。