Understanding the MM proposition 2 (with
corporate taxes) using simple numerical examples and unraveling the
magic of MM formulas with simple algebra
モジリアーニ・ミラー(Modigliani・Miller 以下MMと略す)の第2命題とWACCの関係を簡単な数値例で探ってみる。煩雑な数式の計算過程は末尾の補注にまとめてみた。
MM命題
のプロローグ
MM命題の説明では時価ベースの貸借対照表(market value balance sheet)が使われる。しかし簿記や会計の知識があるとかえって時価ベース貸借対照表の理解を難しくするかもしれない。帳簿価格ベースの財務諸表は企業の業績が良ければ損益計算書の純利益が貸借対照表の純資産に積み上がり株主資本も増加するといったフローとストックの関係が明瞭に表示される。取引記録を複式簿記の原理に従って正確に積み上げる簿価ベースの貸借対照表の特徴である。しかしMMの理論では時価(市場価格ベース)の貸借対照表が使われ、それを用いて負債比率(負債/自己資本)や株主資本コスト、加重平均資本コスト(WACC)などの理論的な関連性が分析される。そのため簿価ベースの現実の会計の世界から思い切って頭を切り換える必要がでてくる。市場価格ベースの貸借対照表の世界では瞬間(無限小の時間)の評価の世界となり損益計算書の出番がなくなってくる。強いて損益計算書を登場させるならば予想損益計算書という形になる。投資家は予想損益計算書から期待EBITを予想し株主や債権者に帰属するキャッシュフローを求め、そのキャッシフローの割引現在価値から時価評価を測定する。効率的な市場では株主や債権者といった投資家は十分な情報を入手して瞬時に評価計算を行う世界と言えるだろう。
仮想の話として、食道楽のAさんが自らの知見を生かすために資本金8000(発行株数100株、1株80、単位は円でもドルでも好みで読まれたい)でU社をIPOで設立し加工食品業を起業したとする。市場での加工食品業の株主期待収益率(株主資本コスト)は10% とする。負債は利用せず、法人税率30%とすると、投資家は以下のような予想損益計算書を期待したとする。
予想損益計算書から
年間の税引後EBITが800と期待され、これがすべて株主に分配されならば800の配当金が毎年発生する。これが毎年、永遠に発生するとすれば、800の無限に続くキャッシュの流列が得られる。このキャッシュフローの割引現在価値(時価)を求めると、800÷株主資本コスト=800÷0.1=8000と計算される。(補注1)
現時点がX年1月1日とすれば、その貸借対照表(時価ベース)は以下のよう表示される。
このように、MMの世界では資産は将来生み出すキャッシュフローの割引現在価値で測定される。負債についても同様で仮に4000の負債(たとえば満期のない永久債のような負債)があり利子率が5%とすれば毎年200の支払利息が発生する。これは企業が存続するかぎり無限に発生する200の無限の流列を生成する。実勢の負債コストが利子率5%に等しければ200÷0.05=4000が負債の時価となる。また、負債が存在すれば必ず利息の支払が発生する。支払利息は税金の計算上は費用とされ、税率が30%であれば支払利息×0.3だけ支払税金が減額される。この節税効果(tax
shield=支払利息×0.3)も永続的に発生する。前記の負債4000、利子率5%の例で計算すれば200
X 0.3=60 の節税効果が毎年無限に続く。この流列の現在価値は60/0.05=1200となり節税効果の割引現在価値となる。これは負債4000 X 0.3=1200に等しいが、当然ながら(4000
X 0.05)÷0.05 X
0.3=1200の計算過程を簡略にしたものである。この節税効果は株主価値および企業価値を高めるので時価ベースの貸借対照表では同額だけ資産と株主資本が増えることになる。直感的なイメージとしては上記の割引現在価値の計算が瞬時に行われて時価ベースの貸借対照表に反映される。仮にU社が4000の負債を利用して同額だけ株式買戻を行い資本構成を変更して社名をL社に変えたとする。効率的市場では投資家はU社が負債4000(利子率5%)を利用するニュースを知ると瞬時に支払利息の節税効果の現在価値1200を認識する。その瞬間にL社の時価ベースの貸借対照表は
L社は負債4000を利用しているので支払利息の負担分だけ税引後の純利益はU社よりは少ないが、EBITは2社ともに1142.86で同一である。
参考文献