ブラック・ショールズ・モデルのデルタを導出するため、基礎的な数学の復習もかねて学習ノート風の備忘録にまとめてみた。何か稚拙で冗長と感じる人は腕の立つ人だろうから寛大な心で軽く読み流していただければと思う。
\(e^{x}e^{y}=e^{x+y}\)
e は自然対数の底 e\(\approx\)2.71828
\(log_{e}x=\ln(x)\) これを自然対数と呼ぶ
自然対数 \(ln(x)\)は \(e^{x}\) の逆関数だから
\(y=\ln\left(x\right)\)
\(x=e^{y}\)
はxとyの関係式としては同じものなので
\(x=e^{\ln(x)}\)
数式の変形処理で\(x=e^{\ln(x)}\)はよく利用される。
\(\frac{d(\ln\left(x\right))}{dx}=\frac{1}{x}\)
Kを任意の定数としてln(x/K)の導関数は
\(\frac{d(\ln\left(x/K\right))}{dx}=\frac{d(\ln\left(x\right))}{dx}-\frac{d\left(\ln\left(K\right)\right)}{dx}=\frac{1}{x}-0=\frac{1}{x}\)
関数\(f\left(x\right)\ \text{関数}g(x)\ \)の積の微分は
\({\left(f\left(x\right)g(x)\right)}^{\prime}=f^{\prime}\left(x\right)g\left(x\right)+g^{\prime}\left(x\right)f(x)\)
\(z=f\left(y\right)\)
\(y=g\left(x\right)\)
\(z=f(g\left(x\right))\)
\(\frac{dz}{dx}=\frac{dz}{dy}\frac{dy}{dx}\)
\(N(z)=\int^{z}_{-\infty}\frac{1}{\sqrt{2\pi}}e^{\frac{-t^{2}}{2}}dt\)
\(\frac{\partial N(\mathrm{z})}{\partial z}=\frac{1}{\sqrt{2\pi}}e^{\frac{-z^{2}}{2}}=n(z)\)
標準正規分布関数は微分可能であり,分布関数を微分して標準正規密度関数が得られる。
標準正規分布N(z)は標準正規密度関数を-\(\infty\)からzまで積分して求めている。標準正規密度関数をn(z)で表せばN(z)をzで微分するとn(z)となる。大雑把にいえば積分されて得た関数を微分すれば元の関数になることを意味している。
以上で一通りの準備が整った。
ブラック・ショールズ・モデルでコールオプション価格式を株価で偏微分するときには(関数の積の微分)と(合成関数の微分)を根気よく繰り返すことになる。その結果としてデルタが求められる。根気と注意力だけが必要となる。
ブラックショールズモデルそのものについては下記の参考文献を参照されたい。ここではデルタの導出だけに注力する。
コール価格
\(c=S_{0}N\left(d_{1}\right)-Ke^{-rT}N(d_{2})\)
プット価格
\(p=Ke^{-rT}N(-d_{2})-\ S_{0}N\left(-d_{1}\right)\)
\(K\) 権利行使価格
\(S_{0}\)株価(時価)
\(\sigma\)ボラティリティ
\(r\) 安全資産利子率
\(T\)満期までの残存時間
\(d_{1}=\frac{\ln\left(\frac{S_{0}}{K}\right)\ +\ \ (r+\ \frac{{\sigma}^{2}}{2}\ )T\ \ }{\sigma\sqrt{T}}\)
\(d_{2}=d_{1}-\ \sigma\sqrt{T}\)
\(c=S_{0}N\left(d_{1}\right)-Ke^{-rT}N(d_{2})\)
コール価格=株価・デルタ-権利行使価格の現在価値・権利行使の確率
ブラックショールズモデルによればコール価格は株式時価\(S_{0}\)にデルタと呼ばれる\(N\left(d_{1}\right)\) を乗じて得たものから権利行使価格の現在価値に権利行使確率(満期日にイン・ザ・マネーITMになる確率)を乗じたものを差し引くことで求められる。
コールのデルタはコール価格\(c\)を株価\(S_{0}\)で偏微分したもので定義される
\(delta=\frac{\partial\mathrm{c}}{\partial S_{0}}=\frac{\partial\left(S_{0}N\left(d_{1}\right)-\mathrm{K}e^{-rT}\mathrm{N}(d_{2})\right)}{\partial S_{0}}\)
数式で表せば上記のとおりになるが結局のところはどのような数式に帰着するのかが本題となる。煩雑な数式処理をするので3つのステップに分けてみる。
\(\frac{\partial\left(S_{0}N\left(d_{1}\right)\right)}{\partial S_{0}}\)の部分
これは関数の積の微分と合成関数の微分が使われる
\(\frac{\partial\left(S_{0}N\left(d_{1}\right)\right)}{\partial S_{0}}=N\left(d_{1}\right)+S_{0}\frac{\partial N\left(d_{1}\right)}{\partial S_{0}}\)
\(=N\left(d_{1}\right)+S_{0}\frac{\partial N\left(d_{1}\right)}{\partial d_{1}}\,\frac{\partial d_{1}}{\partial S_{0}}\)
上式の右辺の第2項のうち分布関数N(・)を微分したものは
\(\frac{\partial N(\mathrm{z})}{\partial z}=\frac{1}{\sqrt{2\pi}}e^{\frac{-z^{2}}{2}}=n(z)\) で密度関数n(・)に置き換えられる。
\(=N\left(d_{1}\right)+S_{0}n(d_{1})\ \frac{1}{S_{0\ }\sigma\sqrt{T}}\)
次に\(d_{1}\)を\(S_{0}\)で微分するとどのようになるか調べてみる。
\(\frac{\partial d_{1}}{\partial S_{0}}=\frac{\partial\left(\frac{\ln\left(\frac{S_{0}}{K}\right)\ +\ (r+\ \frac{\sigma^{2}}{2})T}{\sigma\sqrt{T}}\right)}{\partial S_{0}}\)
一見すると複雑に見えるが変数\(S_{0}\)が出てくるのは
\(\ln\left(\frac{S_{0}}{K}\right)=ln(S_{0})-ln(K)\) だけであり、他は定数と見なして微分で来るので
\(\frac{\partial\ln\left(\frac{S_{0}}{K}\right)}{\partial S_{0}}=\frac{\partial\left(\ln(S_{0})-\ln(\mathrm{K})\right)}{\partial S_{0}}=\frac{1-0}{S_{0}}=\frac{1}{S_{0}}\)
から
\(\frac{\partial d_{1}}{\partial S_{0}}=\frac{1}{\sigma\sqrt{T}}\,\frac{1}{S}=\frac{1}{S_{0\ }\sigma\sqrt{T}}\)
を得る。
\(d_{2}\)の導関数も\(d_{2}=d_{1}-\ \sigma\sqrt{T}\) の関係式から
\(\frac{\partial d_{2}}{\partial S_{0}}=\frac{\partial\left(d_{1}-\ \sigma\sqrt{T}\right)}{\partial S_{0}}=\frac{1}{S_{0\ }\sigma\sqrt{T}}=\frac{\partial d_{1}}{\partial S_{0}}\)
を得る。\(d_{1}\)と\(d_{2}\)の導関数は等しいことが分かる。
以上を整理すると
\(\frac{\partial\left(S_{0}N\left(d_{1}\right)\right)}{\partial S_{0}}=N\left(d_{1}\right)+S_{0}\frac{\partial N\left(d_{1}\right)}{\partial S_{0}}\)
\(=N\left(d_{1}\right)+S_{0}\frac{\partial N\left(d_{1}\right)}{\partial d_{1}}\,\frac{\partial d_{1}}{\partial S_{0}}\)
\(=N\left(d_{1}\right)+S_{0}n(d_{1})\ \frac{1}{S_{0\ }\sigma\sqrt{T}}\)
と表せる。
\(\frac{\partial\left(\mathrm{K}e^{-rT}\mathrm{N}(d_{2})\right)}{\partial S_{0}}\) つまり、デルタの右側部分について調べてみる。
\(\frac{\partial\left(\mathrm{K}e^{-rT}\mathrm{N}\left(d_{2}\right)\right)}{\partial S_{0}}=\mathrm{K}e^{-rT}\,\frac{\partial N\left(d_{2}\right)}{\partial S_{0}}\)
\(=\ Ke^{-rT}\,\frac{\partial N\left(d_{2}\right)}{\partial d_{2}}\ \frac{\partial d_{2}}{\partial S_{0}}\)
ここで、前述のように
\(\frac{\partial d_{2}}{\partial S_{0}}=\frac{\partial\left(d_{1}-\ \sigma\sqrt{T}\right)}{\partial S_{0}}=\frac{1}{S_{0\ }\sigma\sqrt{T}}=\frac{\partial d_{1}}{\partial S_{0}}\)
であることは分かっているので\(d_{2}=d_{1}-\ \sigma\sqrt{T}\)
を代入して式を整理してみる。かなり煩雑な式になってしまうが根気よく整理してみる
\(n(d_{2})=\frac{1}{\sqrt{2\pi}}e^{\frac{-{d_{2}}^{2}}{2}}=\frac{1}{\sqrt{2\pi}}e^{\frac{-{\left(d_{1}-\ \sigma\sqrt{T}\right)}^{2}}{2}}\)
\(=\frac{1}{\sqrt{2\pi}}e^{\frac{-\left(d^{2}_{1}-2d_{1}\sigma\sqrt{T}+\left(\sigma\sqrt{T}\right)^{2}\right)}{2}}\)
\(=\frac{1}{\sqrt{2\pi}}e^{\frac{-d^{2}_{1}}{2}}\cdot e^{\frac{\left(2d_{1}\ \sigma\sqrt{T}-\left(\sigma\sqrt{T}\right)^{2}\right)}{2}}\)
\(=n(d_{1})\ e^{(d_{1}\sigma\sqrt{T}-\frac{\left(\sigma\sqrt{T}\right)^{2}}{2})}\)
ここでeの指数部分の\(d_{1}\)について定義式
\(d_{1}=\frac{\ln\left(\frac{S_{0}}{K}\right)\ +\ (r+\ \frac{{\sigma}^{2}}{2}\ )T}{\sigma\sqrt{T}}\)
を代入する。ここでは、最初に触れた\(e^{x}e^{y}=e^{x+y}\)や\(x=e^{\ln(x)}\) 使って整理すると
\(n(d_{2})=n(d_{1})\ e^{(d_{1}\sigma\sqrt{T}-\frac{\left(\sigma\sqrt{T}\right)^{2}}{2})}\)
\(=n(d_{1})e^{(\frac{\ln\left(\frac{S_{0}}{K}\right)\ +\ (r+\ \frac{\sigma^{2}}{2}\cdot T}{\sigma\sqrt{T}}\cdot\sigma\sqrt{T}-\frac{\left(\sigma\sqrt{T}\right)^{2}}{2})}\)
\(=n\left(d_{1}\right)e^{\ln\left(\frac{S_{0}}{K}\right)\ +\ \left(r+\ \frac{{\sigma}^{2}}{2}\right)T-\frac{\left(\sigma\sqrt{T}\right)^{2}}{2}}\)
\(=n\left(d_{1}\right)e^{\ln\left(\frac{S_{0}}{K}\right)\ +rT}=\mathrm{n}\left(d_{1}\right)\centerdot e^{\ln\left(\frac{S_{0}}{K}\right)}\cdot e^{rT}\)
\(=\mathrm{n}\left(d_{1}\right)\centerdot\frac{S_{0}}{K}\cdot e^{rT}\)
つまり
\(\mathrm{n}\left(d_{2}\right)=\mathrm{n}\left(d_{1}\right)\centerdot\frac{S_{0}}{K}\cdot e^{rT}\)
と簡潔に表現できる。
第1ステップから第2ステップまでの結果を整理すると
\(delta=\frac{\partial\mathrm{c}}{\partial S_{0}}=N\left(d_{1}\right)+n(d_{1})\cdot\frac{1}{S_{0}\sigma\sqrt{T}}\cdot S_{0}-n(d_{2})\cdot\frac{\ 1}{S_{0}\sigma\sqrt{T}}\centerdot\mathrm{K}e^{-rT}\)
\(=N\left(d_{1}\right)+n(d_{1})\cdot\frac{1}{S_{0}\sigma\sqrt{T}}\cdot S_{0}-\mathrm{n}\left(d_{1}\right)\centerdot\frac{S_{0}}{K}\cdot e^{rT}\cdot\frac{1}{S_{0}\sigma\sqrt{T}}\centerdot Ke^{-rT}\)
\(=N\left(d_{1}\right)+n(d_{1})\cdot\frac{1}{{\color{gray}\mathtt{{\color{magenta}S_{0}}}}\sigma\sqrt{T}}\cdot{\color{gray}\mathtt{{\color{magenta}S_{0}}}}-\mathrm{n}\left(d_{1}\right)\centerdot\frac{{\color{red}S_{0}}}{{\color{cyan}{\color{NavyBlue}\mathtt{K}}}}\cdot e^{{\color{brown}rT}}\cdot\frac{1}{{\color{red}S_{0}}\sigma\sqrt{T}}\centerdot{\color{cyan}\mathtt{{\color{NavyBlue}K}}}e^{\mathbin{\color{brown}-}{\color{brown}rT}}\)
\(=N\left(d_{1}\right)+n(d_{1})\frac{1}{\sigma\sqrt{T}}-\mathrm{n}\left(d_{1}\right)\frac{1}{\sigma\sqrt{T}}=N\left(d_{1}\right)\)
結局、色付けされた変数は相殺され、\(N\left(d_{1}\right)\)以外の項は消去され、\(N\left(d_{1}\right)\)だけが残る。
つまり、デルタ=\(N\left(d_{1}\right)\)を得る。
プット価格のデルタも同様の煩雑な計算で求めることも出来るが、プット・コール・パリティの下記の関係式を利用すれば容易に計算できる。
プット・コール・パリティ
\(S_{0}+p-c=Ke^{-rT}\)
両辺を\(S_{0}\)で微分をすると
\(1+\frac{\partial\mathrm{p}}{\partial S_{0}}-\frac{\partial\mathrm{c}}{\partial S_{0}}=0\)
\(\frac{\partial\mathrm{p}}{\partial S_{0}}=\frac{\partial\mathrm{c}}{\partial S_{0}}-1\)
つまり
プットのデルタ=コールのデルタ-1
ブラックショールズモデルの話になると確率偏微分方程式、伊藤の公式、マルチンゲール測度など難解な用語が飛び交っていて近づきがたい。しかし導出された価格式については、極端なパラメータを与えることで、とくに難解な数学を使わなくてもその特徴を探ることが出来る。
コールオプションの価格は下式のようであった。
c= \(S_{0}\) \(\cdot\) \(N\left(d_{1}\right)\) \(\cdot\) \(Ke^{-rT}\) \(\cdot\) \(N\left(d_{2}\right)\)
コール価格 = 株価 \(\cdot\) デルタ \(\cdot\) 権利行使価格の現在価値 \(\cdot\) 権利行使の確率
\(d_{1}\) を変形すると
\(d_{1}=\frac{\ln\left(\frac{S_{0}}{K}\right)\ +\ \ (r+\ \frac{{\sigma}^{2}}{2}\ )T}{\sigma\sqrt{T}}\)
\(d_{2}=\frac{\ln\left(\frac{S_{0}}{K}\right)\ +\ \ (r-\ \frac{{\sigma}^{2}}{2}\ )T}{\sigma\sqrt{T}}\)
K=0 のコール価格を求める。
ここで権利行使価格がゼロだとするとコール価格はいくらか。ゼロ除算の問題を避けるためKをプラスサイドから限りなくゼロの近づけ、K->+0るとする。すると\(d_{1}\)->\(\infty\)となり、N(\(\infty\))=1。また \(Ke^{-rT}\)はゼロになるので\(S_{0}\)\(N\left(d_{1}\right)\)=\(S_{0}\)となる。結局、もしこのようなオプションがあれば原株式と同じ価格になりc=\(S_{0}\) となる。
ボラティリティ=\(\infty\) のコール価格を求める
もしボラティリティが\(\infty\)であったとすれば下記のように、\(d_{1}\)は+\(\infty\)となりN(\(\infty\))=1に近づく。\(d_{2}\)は-\(\infty\)に近づくのでN(-\(\infty\))=0に近づく。
\(d_{1}=\frac{\ln\left(\frac{S_{0}}{K}\right)\ +\ \ (r+\ \frac{{\sigma}^{2}}{2}\ )T}{\sigma\sqrt{T}}\)
\(\sigma->\infty\,\,\,\,\,\,\,d_{1}=0+0+\infty=\infty\)
\(d_{2}=\frac{\ln\left(\frac{S_{0}}{K}\right)+\left(r-\frac{{\sigma}^{2}}{2}\right)T}{\sigma\sqrt{T}}=\frac{\ln\left(\frac{S_{0}}{K}\right)}{\sigma\sqrt{T}}+\frac{r\sqrt{T}}{\sigma}-\frac{\sigma\sqrt{T}}{2}\)
ここで
\(\sigma->\infty\,\,\,\,\,\,\,d_{2}=0+0-\infty=-\infty\)
従ってコール価格は\(S_{0}\)*1-0=\(S_{0}\)となり原株式の価格に等しくなる。
ボラティリティ=0 のコール価格を求める
ボラティリティを限りなくゼロの近づけると\(d_{1}\),\(d_{2}\)->\(\infty\)となり\(N\left(d_{1}\right)\),\(N\left(d_{2}\right)\)は1になる。するとコール価格は\(S_{0}\)- \(Ke^{-rT}\) となる。=0であれば株価\(S_{0}\)はrで無リスクで確実に定率成長し、満期日Tの株価は\(S_{0}\)\(e^{-rT}\) となる。満期日に\(S_{0}\)\(e^{-rT}\)>Kであれば権利行使され、その利得は\(S_{0}\)\(e^{rT}\)-K となる。この利得の現在価値は
(\(S_{0}\)\(e^{rT}\)-K)\(e^{-rT}\)=\(S_{0}\)- \(Ke^{-rT}\)という価格付けとなる.。
ブラックショールズ式の\(N\left(d_{1}\right)\)はデルタと呼ばれ、原資産価格の1単位の変化に対するオプション価格の感応度を示している。デルタが0.6であれば原資産である株価が1円値上がりすると株式オプション価格は0.6円値上がりすることを意味している。デルタはオプション価格式を株価で偏微分して得ているので、オプション価格曲線の傾き(sloap)でもあり、コールオプションであれば株価が上昇していけばデルタは1に近づいていく。この価格感応度を利用してポートフォリオのヘッジ比率に使うことも出来る。手持ちの現物株1円の変動を相殺するには1/0.6=1.67単位のコールオプションの売りを組み合わせれば理屈の上ではポートフォリは株価変動と無関係になる。実際にはデルタは株価や時間などとともに変化するので常にリバランスする必要があり、取引コストも考えると難しい問題となるだろう。
ブラックショールズ式の\(N\left(d_{2}\right)\)はオプションがリスク中立の世界で権利行使される確率と解釈されている。リスク中立の世界は全ての投資家はリスクに無関心でリスクと高い証券には高い収益率をも求めることはしない。このような世界では裁定取引の結果、全ての証券の収益率は安全資産の利子率と同一になる。ブラックショールズモデルはリスク中立評価から導出されており、N(d2)はリスク中立の世界で権利行使される確率と解釈されている。しかし、リスク中立評価は投資家がリスクに無関心であると主張しているわけではなく、株式オプションのような派生証券の評価は投資家はリスクに無関心という仮定により評価式が技巧的に導出できることを示している。リスク中立評価から得られたモデルは実際のリスク回避的な世界でも妥当で有効となる。実際のリスク回避的な世界ではリスクオンの意見もリスクオフの意見もぶつかり合い市場で揉まれて均衡するように価格形成される。つまりリスクが株価に織り込まれる。モデル式は基本的に原資産価格に依存して価格付けするのでリスク回避的な世界においても妥当となる。そこでブラックショールズ式の\(N\left(d_{2}\right)\)から見て市場の相場観がどのようになっているかを探ることも出来るかもしれない。ネット証券などではオプション取引の板情報として指数オプションのデルタやボラティリティ、残存日数が表示されているので\(N\left(d_{2}\right)\)を計算できる。例えば、デルタ0.3148,残存日数23、ボラティリティ 0.1701 とすればN(d1)=0.3148であるからエクセルの関数NORM.S.INV(0.3148) を使えばd1=0.48229を得る。\(d_{2}=d_{1}-\ \sigma\sqrt{T}\) から\(d_{2}\)=-0.48229-0.1701*23/365=-0.52499
(年間日数は取引所の営業日数を使うことも考えられる。たとえば日本取引所の営業日数は245日から246日くらいと言われており、仮に245日とすれば、その平方根は15.65で約16になる。ボラティリティの年率表示が24%であれば24/16=1.5%が1日当たりのボラティリティと概算できる。米国のオプション取引の入門書でも年間取引日数を256日で近似させているものもある。256の平方根は16なので計算が簡便になるからのようである。)
ここでエクセルの関数=NORMSDIST(-0.52499) =0.2998 が計算できる。ブラックショルズモデルからは満期にITMになる確率は約30%を見ていると推測できる。株価指数オプションの権利行使価格毎に\(N\left(d_{2}\right)\)を計算しその推移を分析することで相場観の何かヒントが得られるかもしれない。
参考文献
John C Hull(2003) Options, Futures, and Other Derivatives, Prentice Hall
蓑谷千凰彦(2000)よくわかるブラック・ショールズ・モデル 東洋経済新報社