リースの経済価値計算では借り手と貸し手の条件が同じであれば、つまり適用される税率や金利、キャッシュフローのリスクなどが同じであれば、単純なゼロ・サムゲームとなり、借り手の利益は貸し手の損失、貸し手の利益は借り手の損失となる。しかし、借り手から見たリースの経済計算で検討したように残価リスクの負担能力に2者で差があればゼロ・サムでなくなる。その他にゼロ・サムでなくなるケースとして借り手と貸し手に税率の差がある場合があげられる。
設例による検討
簡単な設例で貸し手から見たリースの経済計算を検討してみる。1000の機械を借入で資金調達して購入する。リース料は契約開始とともに支払い、その後も毎年初めに支払うとする。リース期間は8年とし減価償却は加速償却により最初の5年間で年200だけ実施され5年後の残存価額はゼロとなるとする。また、減価償却と利息支払はリース開始の翌年から始まり、税率は40%、税引前の負債利子率は10%とする。
貸し手のキャッシュフローは下表になる。
貸し手にとって投下資本を回収するのに最低限必要なリース料をxとすると、税引後のリース料は0.6xとなり、この現在価値が663.01に等しくなるxを求めればよい。式で示せば
これを解くと x=167.875
貸し手にとっては少なくとも167.875以上のリース料を獲得する必要がある。貸し手はリース料が167.875以上であれば正味現在価値はゼロ以上となり、貸し手のリース会社の株主価値を高めることができる。
次に、借り手は多額の繰越欠損金を持ち課税所得が8年以上発生しないと予想されると仮定する。このような場合、税率はゼロと同様になり節税効果は生じないのでキャッシュフローは下記のようになる。
借り手が負担しうるリース料の上限をx とすると税引後の割引率は10%(10%×(1-0))
これを解くと x=170.404
課税所得が生じない借り手にとってはリース料が170.40 より低ければリースが有利となり、170.4が負担しうるリース料の上限となる。貸し手から見ても借り手の負担しうる上限をは握する事は有意義でもある。
ここでリース料が167.85以上で170.40以下の間で決定されれば、借り手にとってリースは購入よりもが有利となり、他方、貸し手にとっても調達資金コスト以上の収益率を確保することができる。リース料は借り手と貸し手の交渉で決まるが、このように借り手と貸し手の間に税負担率の差がある場合には、貸し手の下限と借り手の上限との間で決まれば両者が得をすることになる。ここではゼロ・サムではなく借り手と貸し手の両者が利益を得ることになる。
このようにリースの存在意義は税制により借り手と貸し手に税率格差がある場合に顕著となる。税率のほかに、税制上でどの程度の投資税額控除や加速償却が認められているかという点もリースにとって重要である。米国のMACRSのような残存価額ゼロまでの加速償却が認められているとリース会社の減価償却の節税メリットを安価なリース料として借り手に還元できるのでリースのメリットや存在意義を高めることになる。