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リースのメリット、デメリット
リースのメリット、デメリット
リース取引は取引形態、税法上の取り扱い、会計処理の観点等から様々に分類されるが、コーポレート・ファイナンスのテキストなどではオペレーティング・リースとファイナンシャル・リースに分類されることが多い。
オペレーティング・リース 、
賃借物件の維持管理は貸し手が責任を持ち、リース料は物件の取得価額を完全にカバーするには不十分な金額となっている。また、借り手はリース期間満了前でも自由にリース契約を
解約する権利を有している。
ファイナンシャル・リース
賃借物件の維持管理は借り手が責任を持ち、リース料は物件の取得価額を完全にカバーするような金額となっている。また、借り手はリース期間満了前に自由にリース契約を解約する
権利を持っていない。リース期間満了前に解約する場合には借り手が貸し手の投資額や利益を保証するようなペナルティを支払わなければならない。
借り手から見たリースのメリット・デメリット
(メリット)
a.物件の陳腐化リスクを最小限に抑えられる。
自ら購入した場合には耐用年数満了時の簿価が時価を上回る場合には売却損失が発生するリスクがある。リースであればこのようなリスクを回避できる。もちろん、貸し手もこのような陳腐化リスクを避けるためにリース料に陳腐化リスク負担のコストを上乗せするが、貸し手が物件の市場に精通し情報優位の立場にあれば借り手が自ら購入した物件を処分する場合よりもリスクは低くなる。総合的に見れば借り手はリースの利用により陳腐化リスクのコストを低くできる可能性が高い。
b.借り手にとってリース料が税法上の損金となれば貸し手の節税効果を利用できる。
借り手よりも貸し手の方が税率が高ければ物件の減価償却費の節税効果も貸し手の方が大きくなる。借り手と貸し手の税率が同一でも借り手が多額の税法上の繰越損失を利用でき課税所得が生じないような場合には借り手が自ら物件を取得して減価償却するよりも貸し手が取得して減価償却するほうが節税効果が大きい。貸し手が得るこの節税効果の一部をリース料の低減として借り手に与えれば、借り手と貸し手の両者がメリットを受けることができる。
c.資本予算の制約を回避できる。
一般に事業部の責任者は資本的支出について制約を受けており、予め決められた予算限度を超える支出はほとんど不可能である。リースであれば経費予算の範囲で処理できるので設備投資に弾力的に対応できる。米国海軍がこの様な理由でタンカーをリースしたことはよく知られている。
d.運転資本を確保できる。
金融機関からの借入により資金調達して物件を購入する場合には、物件価額の全額に相当する融資を受けられないことが多い。購入額の一部は自己資金を当てる必要がある。リースを利用することで運転資本の減少を避けることが可能となる。
e.契約に際しての時間やコストが相対的に低い
金融機関からの長期借入は資金コストが高くなり、また長期の融資を受けられないことがある。リースでも貸し手は借り手の信用状態に見合うリース料を要求するが、貸し手は自ら物件の所有権を確保しているのでより多くのリスクを負担できるため、相対的に低いコストになる可能性がある。
f.物件を貸借対照表に計上しないオフ・バランスシート効果がある。自ら物件を購入すれば固定資産として貸借対照表に計上され、固定比率や総資本回転率を悪化させるが、リースではリース料が費用処理されるのでこのような財務比率の悪化を防ぐことができる。
最近になってリース会計基準は国際会計基準(IFRS16)や米国会計基準(ASC842)が新たに公表されて大きく変わってきており原則としてオペレーティングリースであれキャピタルリースであれ借り手は資金調達して資産を購入したと同様の会計処理が必要となっている。日本でもリースに関する会計基準(案)が企業会計基準委員会から2023年5月2日に公表されている。パブリックコメントを検討してから改訂会計基準が近い時期に適用されることになるだろうが、その場合にはオフバランスシート効果は見込めなくなる。しかし新しい会計基準ではオンバランスで会計処理するとしても「使用権資産」と「リース負債」という独特の勘定科目を使って両建て表示することになる。リース負債は長期借入金のような複雑な返済条件のある長期負債とは少し性格が異なると思われる。仮にリユース市場が整備されていてリース物件の適正価格による処分が容易であれば使用権資産残高の換金性の裏付けは高くなり、リース中途解約時にも一時に多額の現金追加支出が生ずるリスクは低くなるだろう。一口に負債といっても勘定科目ごとに性格が違うので財務分析でどのように評価されるのか今後が注目される。比率分析について言えば、例えば流動比率が100%を下回る企業の場合には流動資産と流動負債に両建で使用権資産とリース負債がそれぞれ加われば表面的には流動比率は改善する効果をもたらす。例えば、現行の流動資産 80、流動負債 100 であれば流動比率は0.8となる。そこに使用権資産とリース負債が両建てで20加わると流動比率は(80+20)/(100+20)=0.8333となり若干改善する。ROAについてもROA(EBIT/総資産)で計算すれば総資産が増えればROAを低下させることになるが、分母の総資産が増えれば少々のEBITの変動では大きな比率変動は生じない。かえって分母が小さければROAはボラタイルになりやすい。
また加重平均資本コストを求める場合にも同様の効果が生ずる。例えば、資産1000、負債200,純資産800の企業で両建てで使用権資産200、リース負債200が加わると総資産に占める負債のウエートが0.2から0.33に増加する。これは企業価値評価に使うWACCを引き下げる効果が期待できるが、自己資本比率が下がるので株主資本コストが上昇して、効果が相殺されて結局は大きな変化はないかもしれない。
単一の財務指標の動きだけに注目するのではく、複数の財務指標の関連を見る必要があるだろう。ROAもその指標の変化だけに注目せず、ROA(EBIT/総資産)と加重平均資本コスト(WACC)とのスプレッドをみて、企業価値全体を高める経営が達成されているかなど総合的に判断すべきであろう。
g.キャッシュ・フロー及び会計上の利益に及ぼす効果がある。
リース取引が原則としてオンバランスとなったとしても何らかの効果をもたらすだろう。リース関連の支払いは財務キャッシュフロ-になるのでその分だけ営業キャッシュフローは高まるだろうし、利息法だと支払利息部分が逓減していくので時間経過とともに営業外費用が少なくなる効果が期待できる。しかし、株式市場が効率的と仮定すれば株価形成で特に有利不利はないだろうと思われる。
(ディメリット)
a.インフレ等でリース期間満了時の物件の時価が簿価を上回った場合には、借り手はキャピタル・ゲインを得られない。
借り手が満了時に残存簿価か時価のいづれか低い金額で購入できる権利を有していればこのようなディメリットはない。
b.リース満了とともに物件を利用できなくなるリスクがある。
リース期間が満了すると至急に代替の物件を用意しなければならない。借り手が再リースないし時価で購入できる権利を有していれば、このリスクは回避できる。
会計基準や税制が変われば上記のメリットやディメリットも変わってくるだろう。その場合には新しい経済環境に適応した新商品(新リース契約)が開発されてくるのだろう。物を所有するよりも必要な時に借りるといったサブスクがはやる時代である。リユース市場やリサイクルビジネスの発展とともに多様なリース商品が今後に登場してくると期待される。
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