実効税率(計算式)の考え方(経営財務から見る)

 

税法の規定による税率に応じて納付税額を計算することで支払税率(表面税率)が算出される。しかし 企業会計で税効果会計を適用する場合にはこの表面税率ではなく実効税率が使われる。ここでは経営財務(コーポレートファイナンス)の観点から実効税率について考えてみたい。実務的には細かな税目別に計算することになるのだろうが、話を単純化するために法人税と所得割の事業税の2つしかないと仮定する。地方法人税とか住民税法人税割など細かく税目が分かれるが、それらは法人税として1つにまとめてしまう。すると、よく知られているように


実効税率=(法人税率+事業税率)/(1+事業税率)  

の計算式で表される。ここで企業会計の実務に詳しくない人は、なぜ分母に(1+事業税率)がくるのか疑問に感じるようだ。この疑問が生じるのはもっともなことで、この大きな原因は事業税にかかる税務上の処理の仕方にある。事業税は税法上は現金納付した年度に損金として認められるので、翌期の課税所得を低下させるため、その節税効果は1期遅れることになる。例えば、3月末決算の会社であれば当該決算期に係る事業税は一般的には5月末までに納付するので翌期にその節税効果が現れることになる。なお、念のために付言すれば、節税効果とは税金の計算上で費用が税法上の費用等を意味する損金と認められると、税金が(費用×税率)分だけ安くなり税金支払というキャッシュ支払がその分だけ低くなることを言う。節税効果というと何か税法の裏技を使ったり盲点を突くような好ましからぬことと考える人もいるかもしれないが、ここで言う節税効果とはそのようなことではなくtax shieldつまり、損金となれば損金×税率分だけ税金支出のキャッシュ・アウトフローが少なくなることを意味する。実効税率を単純に(法人税率+事業税率)として計算すると事業税が翌期に節税効果を生むことを全く考慮しない税率となり、実質的に過大な税率となってしまう。そこで、仮に当期の事業税は当期に損金算入出来ると仮定したならば、当期の事業税はどのようになるかを計算してみる。ここで法人税率をt、事業税率をb、当初の課税所得をX、として、当期に仮に損金算入が出来た場合の事業税をBとすれば
 (X-B)・b=B として循環計算式で表せる。Bについて整理すると
B=X・b/(1+b) となる。両辺を当初の課税所得Xで割れば

B/X=b/(1+b) として節税効果を織り込んだ実質的な事業税率が求められる。

同様にして法人税も計算すると(X-B)・t 

(tは法人税率を示す。なお当然のこととして 0<b<1、0<t<1とする)
これに実質的な事業税Bを加えると (X-B)t+B
つまり、X・t-B・t+B が実質的な合計税額となるが、BにX・b/(1+b) を代入して式を整理すれば
X・t-X・t・b/(1+b)+X・b/(1+b)  この式を整理すると

(X・t+X・b・t-X・b・t+X・b)/(1+b)=X・(t+b)/(1+b)

上式を当初の課税所得Xで割れば 実効税率 (t+b)/(1+b)  が得られる。

この話を企業財務論の観点でもう少し掘り下げてみる。事業税の節税効果が1期遅れることに着目すれば、当期の法人税はX・t で事業税はX・bとなる。翌期には当期の事業税が損金算入されるため、法人税はX・t・b、事業税はX・b^2の節税効果をもたらす。つまりアウト・キャッシュフロ-がマイナスとなる。しかし、その次の期には、法人税はX・(b^2)・t、事業税はX・b^3の増税効果をもたらす。何故なら前期に節税した分だけ課税所得が増えるため増税効果をもたらす結果となる。しかし、その次の期は再び節税効果を得られ、かくして節税効果と増税効果が交互に反復しながら無限に波及してゆくことになる。式で整理すれば以下のようになる。

年度    法人税増加額        事業税増加額
1      X・t               X・b
2      -X・t・b            -x・b^2
3       X・t・b^2           X・b^3

4      -X・t・b^3           -Xb^4 

この数列をそれぞれ合計すると

X・t(1-b+b^2-b^3+・・・・)+X・b・(1-b+b^2-b^3・・・・)

ここで1-b+b^2-b^3+・・は初項1,公比(-b)の無限等比級数の和となるので、その和は

1/(1-(-b))=1/(1+b) で表せる。

従って X・t・1/(1+b) +X・b/(1+b)   両辺をXで割れば
(t+b)/(1+b) と前述の実効税率の算式と同様の算式が導ける。 


事業税の節税効果が将来に向かって及ぶ時間を考えるならば、現在価値換算した実効税率も考えられる。利子率を i と仮定することにより、現在価値を考慮した実効税率を求めることも考えられる。

その場合は2期目の効果は-X・t・b/(1+i)、 -x・b^2/(1+i)

3期目の効果はX・t・b^2/(1+i)^2、 X・b^3/(1+i)^2 として、逐次に計算すれば公比が-b/(1+i)の無限等比級数が導かれ

結果として、X・(t+b)(1+i)/(1+i+b) を得る。従って現在価値に換算した実効税率は
{(t+b)(1+i)}/(1+i+b) となる。

 

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